ダイアリーエッセイ:夢、かなって

2014年02月07日

ダイアリーエッセイ:夢、かなって
大学1年になる次男が、お札をひらひらさせて、部屋に入ってきた。
「これ、母さんにあげる」
1万円札だ。
「えっ、どうして?」
「オレのマンガが売れたから」
「どこで」
「イベントで」
「何の」
「マンガの」
なにしろ彼の応答は省エネモードで、1を聞いたら1の答えしか返ってこない。
根気よく質問していくと、ようやく事の次第がのみこめてきた。
彼は高校生のころから、勉強はそっちのけで、パソコンでマンガを描いていた。
大学生になると、マンガのサークルに入会。先輩に教わって、冊子を作り、素人の集まるコミケとかいうイベントで販売。すると、予想以上に売れた。うれしくなって売り上げを母親にあげよう、と思い立った……ということらしい。
これまでの感謝の気持ちか、罪滅ぼしか、そのあたりは定かではないのだが、自分の描いたマンガを売って大金を稼ぐことができた喜びは、大きかったに違いない。
それを、真っ先に私のところに持ってきてくれたのだ。
この末っ子の次男坊は、11人のいとこたちのなかでも、近所の友達のなかでも、いつも最年少。小さいころからみんなに面倒を見てもらって、かわいがられて、甘やかされて育ってきた。だからこそ、人一倍やさしくて、ここぞというときに母親を喜ばせるコツもわきまえているらしい。
でも、待てよ。正しい母親なら、「大事にとっておきなさい」と言って受け取らないものだろうか。いやいや、喜んで受け取るべきか。一瞬、躊躇した。
でも、一瞬だった。私は、正しい母親なんかじゃない。自分の気持ちには逆らわない。息子の快挙もうれしい。1万円もうれしい。息子と一緒に喜んでいたい。
すぐに、「ありがとう!!」と、満面の笑みで受け取った。
私がうれしかったのには、わけがあった。
私も子どものころ、マンガ家になりたかったのだ。
見よう見まねで少女マンガを描いてはいたが、だれに見せるわけでもなく、中学生のころには才能のなさに気づいて、あきらめた。
だから、かなえられなかった自分の夢を、息子がかなえてくれたような気がしたのである洪卓立
あとから聞いた話では、純益があったのではなく、出店費用も高いので赤字だったらしい。
じゃ、次回の費用にとっておく?と返したくなっても、返してと言われてもつまらないので、お互いの気が変わらないうちに、形に変えてしまうことにした。
ちょうど、コットンパールのネックレスがほしいと思っていたので、手ごろなのを見つけて買った。記念の品として林嘉欣
「ほら、見て。あなたにもらったおこづかいで、買っちゃった」
「ふーん」とあまり興味もなさそうな、もう忘れてしまったみたいな息子の顔。
でも、私は一生忘れないからね。
夢をかなえた次男坊が、初めて母さんにおこづかいをくれた日のことを。




Posted by faizao at 10:26│Comments(1)そねね
この記事へのコメント
あとから聞いた話では、純益があったのではなく、出店費用も高いので赤字だったらしい。
じゃ、次回の費用にとっておく?と返したくなっても、返してと言われてもつまらないので、お互いの気が変わらないうちに、形に変えてしまうことにした。
ちょうど、コットンパールのネックレスがほしいと思っていたので、手ごろなのを見つけて買った。記念の品として。
Posted by タイトリスト712 at 2014年02月11日 17:07
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